緊張のうちにも溢れる柔らかな感情

 

これは魏の「鐘よう」が221年に旧友の季直が零落しているのに同情、

天子に彼の就職を頼んだ推薦文「薦季直表」のなかにあります。「表」とは

君主や役所に奉る文書のことで、諸葛孔明による出師表と同じ意味です。

「鐘よう」は戦国時代の魏の国の大名ですが、書のほうは古今に比肩する

もののない名人とうたわれました。非常に書が好きで、たくさんの逸話も残っ

ています。そのなかの一つに、就寝していても床の中で、指で布団の内側に

字を書いていたといいます。そのため布団の内側の布がすり切れてしまった

そうです。 

この「素」を見てください。四画目の横棒の長いことには驚かされます。緊張

した線は力強くてたのもしいばかりですが、その力強さのうちにも柔らかな感

情が溢れています。情緒豊かな線が何とも言えない魅力をもっています。

 


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